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トップページ 感染症・感染管理/インフェクションコントロール 【連載】今アツい! 感染界隈 My Topic「忍び寄る薬剤耐性菌:院内に流入(持ち込み)する耐性菌の脅威」

小野寺直人先生(岩手医科大学 医学部 臨床検査医学講座 講師・同附属病院 感染制御部 副部長)に「忍び寄る薬剤耐性菌:院内に流入(持ち込み)する耐性菌の脅威」についてご執筆いただきました。

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忍び寄る薬剤耐性菌:院内に流入(持ち込み)する耐性菌の脅威


TOPIC

 薬剤耐性菌(以下、耐性菌)の発生は、感染症治療や感染対策を困難にする。一方、急性期病院のみならず療養病床や介護施設での耐性菌の蔓延も明らかになっており、耐性菌の保菌患者が医療施設間で相互に移動している可能性が高い。このような状況のなか、いかに耐性菌の持ち込みを認識できるかが重要で、院内での拡大防止のための対策が求められている。

●耐性菌の院内流入のリスク

 近年、抗菌薬が効きにくい耐性菌感染症が世界的に拡大し、公衆衛生および社会経済的に大きな影響を与えている[1]。耐性菌はペニシリンが開発されて以降、1980年代から医療機関などで問題となっていたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus, MRSA)やペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae, PRSP)などのグラム陽性菌から、現在では耐性傾向の強い多剤耐性緑膿菌(multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa, MDRP)やカルバペネム耐性腸内細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae, CRE)の発生により、感染症治療や感染対策は困難になっている[2]。一方、最近の耐性菌の特徴の一つとして、急性期病院以外にも長期入院が必要とされる療養病床や介護施設での耐性菌の蔓延が明らかになっており、耐性菌の院内への流入のリスクは高まっている[3]。特に、MRSAや基質特異性拡張型β‒ラクタマーゼ(extended-spectrum β‒lactamase, ESBL)産生菌は、市中での蔓延が問題となっている[4,5]

 川田らは、療養病床における入院時の耐性菌(MRSA、ESBL産生菌)検出状況で、新規入院患者のうち耐性菌保菌者は35.9%で、病院から転入院した耐性菌保菌者は49.5%、自宅あるいは介護施設からの耐性菌保菌者は18.1%であったと報告している[6]

●驚くべき持ち込まれる耐性菌の検出状況

 2020年1月~2022年12月までの3年間で、岩手医科大学附属病院の感染症発生届け出から調査した主な耐性菌は、MRSA が711件と最も多く、次いでESBL 産生菌が284件、CRE が23件、MDRPが21件であった。そのうち、入院48時間以内に確認された耐性菌の持ち込み例の割合は、MRSAが57.8%、ESBL産生菌が57.7%、CREが60.9%、MDRPが19.0%であり、入院時に検査がされていない患者も考慮すると、耐性菌の院内流入のリスクはさらに高いことが推測された (図1)。なお、持ち込み例が確認された診療科をみると、小児科(15.3%)、救急科(14.6%)、形成外科(11.2%)で多かった。小児科は、入院時スクリーニングの頻度が高いことが要因であると思われる。また、ESBL 産生菌では、救急科(23.1%)、泌尿器科(17.5%)、消化管内科(9.4%)の順であった[7]

インフェクションコントロール32巻11号感染界隈図1


図1 過去3年間の耐性菌の分離数と持ち込みおよび院内発生の割合


\知って得する/ One More知識

 “海外渡航者によって持ち込まれる耐性菌”にも注意が必要である。2020年3月、AMR臨床リファレンスセンターから、「海外旅行に伴う耐性菌の国内流入」に注意喚起がなされた[8]。海外渡航経験のある20歳代以上の男女293人を対象に行った調査で、海外渡航先で抗菌薬を購入した経験があるのは38人(13%)で、特に20代の男性では3割を占めていた。耐性菌は食物を通じて体内に入ったり、抗菌薬を服用して体内で増殖することが明らかになっており、自覚がないまま耐性菌が国内に持ち込まれている可能性が示唆された。

 東京医科大学病院 渡航者医療センターでは、交通網が発達し、世界中の人々が短時間のうちに移動することが可能となった現在、海外渡航者から持ち込まれる耐性菌について警鐘を鳴らしている。自施設の調査として、6ヵ月以上海外に滞在する予定の日本人渡航者で、渡航前後で検査が可能であった49名のうち22名(44.9%)の帰国者からESBL産生菌が分離され、その頻度は、南アジア地域でその割合が高かったと報告している[9]

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“耐性菌流入に対する感染対策の強化方法のポイント”[7]を以下にまとめる。

・ 施設内での耐性菌サーベイランス体制を確立し、耐性菌別の持ち込み例と院内発生例を区別して監視する。

・ 耐性菌の検出が増加している場合、持ち込まれる耐性菌のスクリーニングを行って、スタッフへの注意喚起を行うことも効果的である。特に、市中で蔓延している傾向があるMRSA やESBL 産生菌、地域流行が懸念されるバンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant Enterococci, VRE)には注意を要する。

・ 耐性菌の持ち込み例が多いことを念頭に、院内伝播を抑制する目的で標準予防策の徹底が必須となる。特に耐性菌の持ち込まれるリスクの高い皮膚科や泌尿器科、救急科病棟などでは、手指衛生のタイミングの再教育を含め、外科処置や排泄管理、尿道カテーテル管理や気管吸引などの手順の確認が必要である。


[文献]

1)CDC. About Antimicrobial Resistance. https://www.cdc.gov/drugresistance/about.html#:~:text=Antimicrobial%20resistance%20happens%20when%20germs,and%20sometimes%20impossible%2C%20to%20treat.

2)AMR臨床リファレンスセンター.日本の薬剤耐性菌の状況:医療現場での耐性菌増加.https://amr.ncgm.go.jp/general/1-3-1.html

3)Gruber, I. et al. Multidrug-resistant bacteria in geriatric clinics, nursing homes, and ambulant care——prevalence and risk factors. Int J Med Microbiol. 303(8), 2013, 405—9.

4)舘田一博.市中で広がる耐性菌.日本内科学会雑誌.104(3),2015,572—9.

5)小野寺直人ほか.岩手県盛岡二次医療圏内の病院とその関連介護保険施設における基質特異性拡張型β—ラクタマーゼ(ESBL)産生菌の実態調査と要因分析.感染症学雑誌.90(2),2016,105—12.

6)川田悦夫ほか.療養病床における入院時耐性菌の検出状況.日本老年医学会雑誌.50(4),2013,555—6.

7)小野寺直人ほか.耐性菌の流入リスクと拡大防止戦略:感染対策バンドルセブン.感染対策ICT ジャーナル.18(2),2023,135—41.

8)AMR 臨床リファレンスセンター.Release: 海外旅行での薬剤耐性菌に注意.https://amr.ncgm.go.jp/pdf/20200311_1_newsletter.pdf

9)水野泰孝.海外から耐性菌の持ち込み.モダンメディア.63(12),2017,299—303. インフェクションコントロール32巻11号表紙


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*INFECTION CONTROL32巻11月号の掲載の公開記事となります。

*本記事の無断引用・転載を禁じます。